HODIC鈴木・岡田賞 選考委員会報告
技術部門ついてはミノルタの「ホログラフィック光学素子を用いたシースルーメガネ型ディスプレイの開発」と「液晶プロジェクター用ホログラムカラーフィルターの開発」の両者について議論が行われたが、色々の面から検討すると、甲乙つけがたく、ちょうど同じ時期にいわばホログラフィーの新しい応用の一つであるHOEの分野でこのような仕事がされ、いずれも今後の期待が大きいと思われましたので、前例はありませんが、敢えて両者ともに授賞に値すると言うことになりました。いずれもグループの仕事になります。更に後者は3社にわたる仕事でありますが、この技術を実現する上でこの協力関係は不可欠で有っただろうと考え、3社を対象にしました。また、奨励賞としては今年度の規定改定により新設が決まっていますので、今後に期待できる仕事の質であると言うことで湘南工科大学の高野 邦彦 氏「白色光源を用いたホログラフィ立体テレビ」にきまりました。芸術部門は今春筑波大学を修了した蘇 芳吉 氏を作品のコンセプト、内容などから十分評価に値する仕事であるとして、選考委員が一致して決定しました。また、安見真貴子 氏に関しては単身米国に渡り、ホログラムを独学で学び、現在、ホログラム作家のホログラム制作を行うと同時に自らも作品に取り組む意欲と、今後を期待して奨励賞を贈ることになりました。
なお、本年改訂した規定では奨励賞も含めて年間4人あるいは4グループとなっているのに対し、本年度は奨励賞も含めて技術部門2グループ+1人、芸術部門は2人となっていて、規定数を超えますが、昨年度は芸術部門で受賞者がなかったことも踏まえ、問題なしと致しました。
対象:HODIC ANNUAL 展示会でのホログラフィックシースルーブラウザの展示
参考文献: I. Kasai, Y. Tanijiri, T. Endo and H. Ueda, "Actually wearable see-through display using HOE" , ODF 2000 (2nd International Conference on Optical Design and Fabrication) pp.117-120
選定理由:ホログラムを用いないヘッドマウントディスプレイはすでに商品化されているが、重くて長時間使用に耐えない、前方視界を遮るなどいくつかの課題がある。ホログラフィック光学素子(HOEを用いた車載用ヘッドアップディスプレイも商品化されているが構成に大きな空間を必要としている。笠井氏らはHOEをコンバイナとして使うだけでなく、非軸対称レンズを組合わせた光学系を用いてホログラムを露光することでHOEに結像機能を持たせることにより、超小型、軽量(25g)のメガネ型ディスプレイの開発に成功した。ホログラムの波長選択性が最大限に活かされたシースルー機能を持っており、アニュアル展示会でも装着したまま歩き回れることを示し、ウエアラブルコンピュータが注目される中HOEがこの分野で大きな役割を果たすことができることを示した。
参考文献:山崎哲広、D-ILAホログラム素子,HODIC CircularVol.20,No.3(pp.15-20,25-30)
Y.Taniguchi, Hologram Color Filter for LC Projection TV, IDW '00, Proceedings, p447,(2000)
選定理由:本研究は、従来の色吸収型のカラーフィルターでは不可能であった高輝度化、高密度化を実現するための液晶プロジェクター用ホログラムカラーフィルターを開発し、それを組み込んだプロジェクターの商品化を実現したものである。厚いホログラムの特長を生かしたこの素子は、高い回折効率と同時に波長選択性と集光作用を持ち、さらに偏光特性を巧みに利用することにより高い光利用率が可能である。また、量産性にも優れている。この素子を、すでに開発されている高密度な反射型液晶表示素子と組み合わせることによって小型、低価格で高輝度の液晶プロジェクターを実現し、すでに製品として世に出している。この種のカラーフィルターは、各種のプロジェクター用素子としての利用も期待できる。このように本研究は、材料としてのフォトポリマーの開発、ホログラムの設計と量産技術の開発、さらにその特長を生かした製品の開発という、それぞれの技術開発が有機的に結合した結果であり、その成果は高く評価できる。
対象論文:「白色光源を用いたホログラフィ立体テレビ」HODIC Vol.20, No.3
選定理由:従来のレーザに代わる白色光源を用いたホログラフィ立体テレビのカラー化についてその手法および可能性について提案を行っている。比較的良好なカラー再生像が得られており有効な方法と考えられる。
対象作品:「記憶の形ー筑波」
推薦理由:主としてワンステップによるレインボウ・シャドウグラムに熱心に取り組み、茨城県土浦市にて「観遊の六面体」企画グループ展開催、第六回大学ホログラフィー展出品(武蔵野美術大学)、第七回大学ホログラフィー展出品(千葉大学)、筑波大学芸術研究科修了展の展覧会で作品発表を行った。
特に筑波大学修了論文「ホログラフィーによるレインボー空間について」(制作報告書)及び作品「記憶の形ー筑波」では,これまでの学習結果を踏まえて、3枚の透過型レインボウ・タイプ(8×10)を鏡面により反射再生し,背後に3枚の布製プリントを配置する大掛かりな展示によって,成果を得た。展示会場にも恵まれ,作者の意図がある程度達成されたものと評価され、芸術部門賞に値すると思われる。
推薦理由:米国に単身渡り、The Center for Holographic Artsにおけるインターンとして、ルビーレーザを使ったパルスホログラム及びこれを用いたセカンドステップ(反射型)ホログラム制作に関する一連の技術を習得し、多くの作家の制作に携わった貴重な存在である。
また、自らも作品の制作に意欲を示すその行動力とエネルギッシュな努力と意欲を高く評価し、今後の成果に期待し奨励のために授与すべきと考える。
受賞者のプロフィール
笠井一郎(カサイ イチロウ)
1963年9月1日生 37歳
ミノルタ株式会社 研究開発本部 光技術部
経歴:
1987年 富山大学 理学部 地球科学科 卒
同年 ミノルタ株式会社 入社
2000年 ホログラム光学素子の応用に関する開発に従事
2000年5月 大坂科学技術センター出向
2001年4月 ミノルタ株式会社 光技術部勤務
抱負:
入社してからは、主にカメラのファインダの設計に携わってきました。外界の映像に任意の表示像を自由に重畳できるディスプレイを作りたいと思い、ホログラムと本格的に関わるようになって4年が過ぎました。ようやく期待通りの試作を得ることが出来、やはりホログラムってすごいなーと感心しています。まだまだ駆け出しでホログラムの特徴をいかしきれていないのですが、今後は他のすばらしい特徴もうまく引き出せるようなものを開発していきたいと思います。それがホログラムのさらなる展開への一助になればと思っています。みなさまのご指導をよろしくお願いいたします。
研究業績:
山崎 哲広(ヤマザキ テツヒロ)
1958年7月31日生 42歳
日本ビクター株式会社 技術開発本部 ILA開発ユニット
経歴:
1982年 北海道大学 工学部 応用物理学科 卒
同年 日本ビクター株式会社 入社
以後、化合物半導体発光素子、光集積回路に関する開発に従事
現在:日本ビクター株式会社 技術開発本部 ILA開発ユニットに勤務
抱負:
入社以来、光学に関係する開発に携わる事が多く、今回、大日本印刷株式会社およびデュポンホログラフィクス社の皆様とホログラム技術を用いて商品化に結びつけることができたのはうれしい限りです。特に過去に経験した電子線描画装置による微細グレーティング技術を生かせた事で、今後も技術の幅を広げて行くことが大事と実感しております。
研究業績:
市川 信彦(イチカワ ノブヒコ)
1965年10月16日生まれ 35歳
大日本印刷(株)研究開発センターHCFグループ
経歴:
1988年3月 早稲田大学 理工学部 電気工学科 卒
1988年4月 大日本印刷(株)入社
現在 大日本印刷(株)研究開発センター 勤務
趣味:
ゴルフ、バイク
抱負:
液晶プロジェクタ用にホログラムでカラーフィルター(HCF)が出来るのではないかと着想したのは、いまから8年ぐらい前だったと記憶しています。それから色々な原理実験を重ね、'95年のアジアディスプレイで発表した頃が、まさに開発の第1次ピークだったと思います。残念ながら、その後光源含めシステムとして難しいところが見つかり、開発は一時トーンダウンしてしまいました。
しかしながら、その後2、3年経ってから日本ビクター様からもう一度一緒に開発しましょうとお声がかかり、今度はLCOS用のHCFとして製品化に取組む事となりました。ところが開発は困難を極めました。この数年の間に画素ピッチは予想も出来ないほどファインになり、その為のHCFとその製造プロセスも驚くほどの高精度を要求されていました。その甲斐もなんとか実り、世界初のHCFを搭載したリアプロジェクションTVが店頭を飾ることができました。
この取組みから、私は多くの事を学べたと考えています。例えば困難な事も強い信念を持てば成し遂げられる事。社内外関係者の協力体制を組む事がどれだけ大事か等です。
今後はこのことを糧に、更にHOEの可能性にチャレンジしていきたいと考えています。
最後ではありますが、社内外で開発に御協力頂きました方々、身に余る御評価を頂きましたHODIC関係者の皆様に厚く御礼申上げます。
研究業績:
Charles Baylor, Jr.
born 12/5/1940 & age 60.
米国デュポン社 DuPont Holographics, Research Associate,
HCF Development: Responsible for formulation, improving composition light stability, improving delta-n and adhesion.Technical liaison for all chemical technical problems and general correspondence.
Profile:
BS, Morgan State University, 1962, Baltimore, MD Ph'D, Utah State University, 1967, Organic Chemistry, Logan Utah
Dupont Co. 1966-Present
Publications:
1. Authors: William M. Moore & Charles Baylor, Jr.
Title: The Participation of the Hydroxyl Group in the Photobleaching of 9-(2'-Hydroxy-2'-methylpropyl) isoalloxazine
Journal: Journal of the American Chemical Society, 88, 5677(1966)
2. Authors: William M. Moore & Charles Baylor, Jr.
Title: The Photochemistry of Riboflavin. IV.
The Photobleaching of Some Nitrogen-9 Substituted Isoalloxazine and Flavins.
Journal: Journal of the American Chemical Society, 91, 7170(1969)
3. Authors: Carl C. Wamser, George S. Hammond, Catherine T. Chang & Charles Baylor, Jr.
Title: Photoreaction of Michler's Ketone with Benzophenone. A Triplet Exciplex.
Journal: Journal of the American Chemical Society, 92, 6362(1970).
Patents:
1. Inventor: Charles Baylor, Jr.
Patent No: US 4,790,919
Date: Dec. 13, 1988
Title: Process for Preparation of Electrophoresis Gel Material
2. Inventor: Charles Baylor, Jr.
Patent No: US 4,863,647
Date: Sept. 5, 1989
Title: Process for Preparation of Electrophoresis Gel Material
Comments:
I have been working on HRF & HRS material development since joining DuPont Holographics in 1988. I have enjoyed the collaborative work with JVC and DNP which begin in 1998 to make a Holographic color filters for HDTV. The success and the join effort shared by all has been one of the high points I've had since joining DuPont Holographics. I look forward to contributing and collaborating in the future for new and innovative HOE developments. I am very proud and appreciative of receiving this award resulting from the collaborative work between JVC, DNP & DuPont.
高野邦彦(タカノ クニヒコ)
1973年2月6日生まれ 28歳
経歴:
1996年3月 湘南工科大学工学部電気工学科卒業
1998年3月 同大学大学院工学研究科博士前期課程電気工学専攻修了
1998年4月~1999年6月 (株)ケンウッドエンジニアリング勤務
1999年4月~同大学大学院工学研究科博士後期課程電気工学専攻入学
2001年4月~川崎市立川崎総合科学高等学校に非常勤講師として勤務
2002年3月 同博士後期課程修了予定
抱負:
高柳健次郎博士らによって電子式テレビジョンがこの世に誕生して以来、"立体テレビ"誕生が強く期待されていると思います。私は自然な立体感が得られるホログラフィの魅力を活かした、立体ディスプレイをこの世に早い段階で広めたいという夢を持ちホログラムと付き合っています。 この度は、このような過分な賞を戴きまして非常に光栄に存じます。今後はこの賞を励みに「200X年のワールドカップは、"ホログラフィカラー立体テレビ"で!」をモットーとして頑張りたいと思います。
研究業績:
論文:
国際会議:
蘇 芳吉(FANG CHI SU)
1971年9月23日中華民国台北市生まれ 29歳
経歴:
1990/07----台湾省台北県私立復興高級商工職業学校美術工芸科卒業
1995/04----名古屋造形芸術大学美術学科入学
1999/03----名古屋造形芸術大学美術学科卒業
1999/04----日本国立筑波大学大学院芸術研究科修士課程入学
2001/03----日本国立筑波大学大学院芸術研究科修士課程修了
作品発表:
1998/09----第五回大学ホログラフィー展出品(多摩美術大学上野毛校舎)
1999/03----ホログラムアニュアル'99イン銀座出品
1999/02----名古屋造形芸術大学卒業制作展
1999/10----茨城県土浦市にて「観遊の六面体」企画グループ展開催
1999/11----第六回大学ホログラフィー展出品(武蔵野美術大学)
2000/11----第七回大学ホログラフィー展出品(千葉大学)
2001/03----筑波大学芸術研究科修了展 「記憶の形ー筑波」
抱負:
ホログラムの制作についてまだ未熟ですが、これからも勉強しながら品質のいい作品を制作し続けたいと思います。
また、近い将来、僕の母国台湾でホログラフィーアートの魅力を紹介し、広げたいと思います。
安見真貴子(ヤスミ マキコ)
1980年11月24日京都生まれ
経歴:
1999年3月京都市立銅駝美術工芸高等学校、図案科卒業
1999年4月渡米
2000年1月からCenter for the Holographic Artsでインターンシップ中
アーティスト・イン・レジデンス作家(マット・シュライバー、ハリエット・キャスディンシルバー、ドリス・ヴィラ、ジョージ・ダインズ、スーザン・コウエル、石井勢津子)の制作にかかわる。
抱負:
ホログラフィーがアートであることを認識されるよう、ホログラフィーを通してしか表現できないイメージやアイデアを創造し発表していきたい。
発表作品:
「少女 A」Center for the Holographic Arts内ギャラリー ニューヨーク